「丁寧に話しているつもりなのに、あとから聞き返される」「失礼ではないけれど、どこか不自然に聞こえる」。
そんなときは、敬語そのものが間違っているというより、敬意の向き先がずれている、敬語を重ねすぎている、必要以上に回りくどくなっていることが少なくありません。
敬語は、難しい言葉をたくさん知っている人が勝ちではありません。
大切なのは、相手に伝わりやすく、場面に合った言い方を選ぶことです。
この記事では、敬語っぽいけれど誤用になりやすい言葉を、初心者にもわかるように整理していきます。
まずは一覧で全体像をつかみ、そのあとで「なぜ誤用になるのか」を順番に解説します。
敬語っぽいけれど誤用になりやすい言葉一覧
| 言いがちな言葉 | 無難な言い換え | ポイント |
|---|---|---|
| ご苦労様です | お疲れ様です | 目上には「お疲れ様です」が無難 |
| おっしゃられる | おっしゃる / 言われる | 二重敬語になりやすい |
| お読みになられる | お読みになる | 尊敬語を重ねている |
| お待ちしてください | お待ちください / お待ちになってください | 相手の動作に謙譲語は使えない |
| 担当者に伺ってください | 担当者にお聞きください / お尋ねください | 「伺う」は自分側のへりくだり |
| お名前を頂戴できますでしょうか | お名前を伺ってもよろしいでしょうか | 名前は「頂戴する」より「伺う」が自然 |
| ○○様でございますね | ○○様でいらっしゃいますね | 相手を立てるなら尊敬語を使う |
| こちらが資料になります | こちらが資料です / こちらが資料でございます | 「なります」の多用に注意 |
| 私のほうで対応します | 私が対応します | 「のほう」は不要なことが多い |
| 休まさせていただきます | 休ませていただきます | 「さ入れ」になっている |
| 資料を添付させていただきます | 資料を添付いたします | 「させていただく」の過剰使用 |
| 卒業させていただきました | 卒業しました | 許可や恩恵の関係が弱い |
| 部長はフランス語もお話しになれるんですか | 部長はフランス語もお話しになりますか | 能力を直接たずねる形が強い |
| コーヒーをお飲みになりたいですか | コーヒーはいかがですか | 相手の願望を直接たずねすぎる |
| 了解しました | 承知しました / かしこまりました | 目上や顧客には言い換えが無難 |
この表を見てわかる通り、誤用の多くは次の4パターンに分けられます。
1. 相手の動作に謙譲語を使っている
2. 尊敬語や丁寧表現を重ねすぎている
3. 「させていただく」を使いすぎている
4. 丁寧そうに見えるだけで、意味がずれている
ここからは、この4つを中心に詳しく見ていきます。
敬語っぽい言葉が間違いやすい理由
相手を立てる言葉と、自分をへりくだる言葉が混ざりやすいから
敬語には大きく分けて、相手を立てる言い方と、自分を下げる言い方があります。
たとえば、
- 相手の行動を高める → 尊敬語
- 自分の行動をへりくだって言う → 謙譲語
- 文全体をていねいにする → 丁寧語
という違いがあります。
この区別があいまいなまま「丁寧そうな形」を足していくと、
見た目は敬語っぽいのに、仕組みとしてはずれている表現が生まれます。
長く言えば丁寧になると思いやすいから
敬語に自信がないと、つい言葉を長くしてしまいます。
たとえば、
- お名前を頂戴できますでしょうか
- 資料を添付させていただいております
- ご注文の品はおそろいになりましたでしょうか
こうした表現は、一見ていねいです。
ただし、長い=正しいではありません。
むしろ、敬語は短く、意味がまっすぐ通るほうが上品に聞こえることが多いです。
マニュアル表現をそのまま覚えてしまいやすいから
接客や電話対応でよく耳にする言い方の中には、
広く使われていても、気になる人がいる表現があります。
そのため、
「みんなが使っているから正しい」と思い込むと、
場面によっては不自然さが出ます。
大切なのは、形だけを覚えるのではなく、誰を立てる言葉なのかを理解することです。
誤用になりやすい敬語 1 相手の動作に謙譲語を使ってしまう
これは、敬語の誤用で特に多いパターンです。
お待ちしてください
「お待ちしてください」は丁寧そうですが、少し不自然です。
理由は、「お〜する」という形が、基本的に自分側の動作をへりくだって言う形だからです。
相手に待ってもらうなら、
- お待ちください
- 少々お待ちください
- 少々お待ちになってください
のほうが自然です。
担当者に伺ってください
これも一見きれいに聞こえますが、「伺う」は自分が相手に聞く・訪ねるときに使う謙譲語です。
つまり、客に向かって「伺ってください」と言うと、
客の動作に対して謙譲語を使っていることになります。
この場合は、
- 担当者にお聞きください
- 担当者にお尋ねください
が適切です。
申されました
「申す」は、自分側がへりくだる言い方です。
そのため、相手について
- お客様が申されました
- 部長が申されていました
と言うと、謙譲語に尊敬の形を重ねた不自然な表現になりやすいです。
相手について言うなら、
- おっしゃいました
- 言われました
とするほうが自然です。
誤用になりやすい敬語 2 二重敬語になってしまう
二重敬語とは、同じ種類の敬語を一つの語に重ねることです。
丁寧にしたつもりが、かえってくどくなる代表例です。
おっしゃられる
「おっしゃる」の時点で、すでに尊敬語です。
そこに「られる」を足すと、尊敬の意味が重なります。
そのため、
- × おっしゃられる
- ○ おっしゃる
- ○ おっしゃいました
のようにしたほうがすっきりします。
お読みになられる
これも同じです。
- 「お読みになる」だけで尊敬語
- さらに「られる」を足すと過剰
になるため、
- × お読みになられる
- ○ お読みになる
が基本です。
気をつけたいのは「全部の二重敬語が同じ重さではない」こと
ここは少し大事なポイントです。
敬語には、一般には二重敬語とされても、慣用として定着している言い方があります。
そのため、何でも一律に「絶対にダメ」と切ってしまうと、かえって説明が雑になります。
実際には、
- 明らかにくどいもの
- 広く定着しているもの
- 相手によって気になる・気にならないが分かれるもの
が混ざっています。
ブログや仕事の場では、迷ったら
より短く、誤解されにくい形を選ぶのが安全です。
誤用になりやすい敬語 3 「させていただく」の使いすぎ
「させていただく」は便利ですが、乱用しやすい表現でもあります。
「させていただく」が自然な場面
この言い方が合いやすいのは、
相手の許可を受けて行う、またはそのことで恩恵を受けるという感覚がある場面です。
たとえば、
- コピーを取らせていただけますか
- 本日は休業させていただきます
のような言い方は、文脈によって自然です。
「させていただく」がくどくなる場面
一方で、何でもかんでも「させていただく」にすると、回りくどく見えます。
たとえば、
- 資料を添付させていただきます
- 説明させていただきます
- 卒業させていただきました
などです。
この場合は、単純に
- 資料を添付いたします
- ご説明いたします
- 卒業しました
で十分なことが多いです。
休まさせていただきます は特に注意
これは「休ませていただく」に、不要な「さ」が入った形です。
- × 休まさせていただきます
- ○ 休ませていただきます
発音すると勢いで言ってしまいがちですが、文章では特に目立つので注意しましょう。
誤用になりやすい敬語 4 丁寧そうに見える接客表現
ここは、日常でも仕事でも非常によく使われる部分です。
こちらが資料になります
この「〜になります」は、変化を表すときには自然です。
しかし、ただ物を示しているだけなのに多用すると、不自然になります。
たとえば、
- こちらが資料になります
- おつりは300円になります
- 会場は右手になります
よりも、
- こちらが資料です
- おつりは300円です
- 会場は右手です
のほうが自然で伝わりやすいです。
丁寧にしたいなら、
- こちらが資料でございます
のように言えば十分です。
私のほうで対応します
「〜のほう」も、丁寧そうに聞こえる一方で、不要なことが多い表現です。
- 私のほうで対応します
- こちらのほうをご覧ください
- お飲み物のほうはいかがなさいますか
などは、少し回りくどい印象になりやすいです。
言い換えるなら、
- 私が対応します
- こちらをご覧ください
- お飲み物はいかがなさいますか
で十分です。
○○様でございますね
これもよく聞く表現ですが、相手を立てるなら、より自然なのは
- ○○様でいらっしゃいますね
です。
「ございます」は丁寧ではありますが、
相手そのものを高める尊敬語とは少し性質が違うため、違和感を持たれることがあります。
お名前を頂戴できますでしょうか
かなり丁寧に聞こえますが、少し盛りすぎです。
「頂戴する」は、物をもらう場面では使いやすい一方、
名前をたずねる場面では、次の言い方のほうが自然です。
- お名前を伺ってもよろしいでしょうか
- お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか
電話対応では、こちらのほうが落ち着いて聞こえます。
誤用かどうか迷いやすいグレーな言葉
ここでは、絶対にNGと決めつけにくい言葉を扱います。
この視点を入れておくと、記事全体に深みが出ます。
とんでもございません
昔は「とんでもない」の活用として不自然だとされることがありました。
ただ、現在では、褒め言葉や評価を受けたときに謙遜して返す表現としては問題ないと考えられる場面もあります。
とはいえ、場面によっては少し硬く聞こえるため、
言い換えるなら次も使いやすいです。
- 恐れ入ります
- ありがとうございます
- もったいないお言葉です
つまり、「とんでもございません」は
一律に誤用と断定するより、場面を見て使い分ける言葉だと考えるとわかりやすいです。
ご苦労様です
これは日常でかなり耳にしますが、目上に対しては避けたほうが無難です。
上司や取引先、年上の相手には、
- お疲れ様です
- お疲れ様でした
を使うほうが安心です。
「ご苦労様」は、相手をねぎらう言葉ではありますが、
使う相手との関係によっては上から聞こえやすいためです。
了解しました
厳密に「間違い」とまでは言い切れなくても、
ビジネスの場ではより適した言い換えがある言葉です。
目上や顧客には、
- 承知しました
- かしこまりました
のほうが、落ち着いて聞こえます。
社内のフラットな会話や、親しい間柄なら「了解しました」でも大きな問題にならないことはあります。
ただし、迷うなら言い換えるのが安全です。
敬語っぽいけど不自然になりやすい質問表現
敬語の形自体は合っていても、聞き方として踏み込みすぎる場合があります。
部長はフランス語もお話しになれるんですか
これは敬語の形だけ見ると丁寧そうです。
しかし、相手の能力を直接たずねる感じが強く、場面によっては不自然です。
よりやわらかくするなら、
- 部長はフランス語もお話しになりますか
のように言うほうが自然です。
コーヒーをお飲みになりたいですか
これも敬語の形自体より、相手の願望を直接聞きすぎるのが気になるポイントです。
自然な言い換えは、
- コーヒーはいかがですか
- コーヒーをお飲みになりますか
です。
敬語は「形が丁寧か」だけでなく、
聞き方として自然かまで見ることが大切です。
敬語っぽい誤用を避けるための簡単チェック法
敬語に迷ったときは、次の3つでかなり整理できます。
1. その動作をするのは誰かを確認する
- 相手がする動作 → 尊敬語
- 自分がする動作 → 謙譲語
- どちらでもない文全体の丁寧さ → 丁寧語
これだけで、多くの誤用を避けられます。
2. 長すぎたら一度シンプルに戻す
「丁寧にしたい」と思って長くした文ほど、崩れやすいです。
たとえば、
- 資料を添付させていただいております
ではなく、 - 資料を添付しております
に戻してみる。
それだけで、自然になることがよくあります。
3. 迷ったら「短くて失礼のない形」を選ぶ
敬語で迷ったときは、無理に難しい表現を使わなくて大丈夫です。
たとえば、
- お伺い申し上げます
より - 伺います
のほうが伝わりやすいこともあります。
敬語は、相手に知識量を見せるためのものではありません。
相手に気持ちよく受け取ってもらうための道具です。
そのまま使える言い換え例文
最後に、実際の会話やメールで使いやすい形にまとめます。
電話対応で使いやすい言い換え
- × お名前を頂戴できますでしょうか
○ お名前を伺ってもよろしいでしょうか - × 担当者に伺ってください
○ 担当者にお尋ねください - × 少々お待ちしてください
○ 少々お待ちください
社内・ビジネスで使いやすい言い換え
- × 了解しました
○ 承知しました - × ご苦労様です
○ お疲れ様です - × 資料を添付させていただきます
○ 資料を添付いたします - × 私のほうで対応します
○ 私が対応いたします
接客で使いやすい言い換え
- × こちらが資料になります
○ こちらが資料です - × ご注文の品はおそろいになりましたでしょうか
○ ご注文の品はそろいましたでしょうか
○ ご注文の品は以上でよろしいでしょうか - × ○○様でございますね
○ ○○様でいらっしゃいますね
まとめ
敬語っぽいけれど誤用になりやすい言葉には、共通点があります。
それは、
「丁寧そうに見せること」が先に立って、敬意の向き先や意味がずれてしまうことです。
覚えておきたいのは、次の3点です。
- 相手の動作には尊敬語、自分の動作には謙譲語を使う
- 長くしすぎると、かえって不自然になる
- 迷ったら、短くて意味のはっきりした表現を選ぶ
敬語は、完璧であることより、相手に失礼なく伝わることが大切です。
「難しい言い方」よりも、自然で誠実な言い方を選べる人のほうが、結果的に印象はよくなります。
まずはこの記事の一覧表から、
自分がつい使いがちな表現を3つだけでも直してみてください。
それだけでも、言葉づかいの印象はかなり変わります。
