インリアル・アプローチ

周りの大人が援助の仕方を学ぶ手法

ここでは「インリアル・アプローチ(Inter Reactive Learning and Communication)」についての説明をします。

これは、大人との遊びや関わりの中で言葉の成長を促すことを狙いとしている技法です。 もう少しかみ砕いて説明すると、子どもの反応を大人が読み取り関わりを持つことで、子どもの「わかってもらえた!」「それが伝えたかった!」という小さな体験を重ねていくことに重きを置いたアプローチです。

特徴は?

大きく5つの特徴があります

1.子ども中心の自然な遊びを取り入れる
2.ことばが出ていない子どもに適応できる。また、ことば以外行動を含めたアプローチ 3.子どもだけでなく、関わる大人のレベルアップを促す
4.子どもの意思(動機)を大切にしたアプローチ
5.コミュニケーションに問題を抱える全ての子どもに関わることができるアプローチ という5つの特徴が挙げられます。インリアル・アプローチは1974年、コロラド大学のR.Weiss博士によって開発された語用論的アプローチを理論的背景とする言語発達遅滞児のためのコミュニケーションアプローチです。

コミュニケーションのルール

他でも役たつ?言葉のルール

ここからは、インリアル・アプローチの具体的な方法を解説していきます。 コミュニケーションを行うにあたり、いくつかのルールを枠組みとして設定します。

1.子どもの発達レベルに合わせる
2.会話や遊びの主導権を子どもにもたせる
3.相手が始められるよう待ち時間をとる
4.子どものリズムに合わせる
5.ターン・テーキング(やりとり)を行う
6.会話や遊びを共有し、コミュニケーションを楽しむ

このルールを基に、子どもとのやりとりを重ねていきます。

大人に求められる姿勢

SOULの姿勢

インリアル・アプローチでは、大人に求められる姿勢4つがあります それぞれの頭文字をとって"SOUL"と呼ばれています。

1.Silence(静かに見守ること) 子どもが場面に慣れるため、大人から積極的に働きかけるのではなく 子どもの様子を余裕をもって見守りましょう
2.Observation(よく観察すること) 子どもの話す力のみを見るのではなく、子どもの一挙手一投足を観察し 子どもの能力や現状を観察しましょう
3.Understanding(深く理解すること) よく観察して、子どもの困りごとを理解します。その中で、大人ができる子どもへの支援・援助と考えましょう
4.Listening(耳を傾けること) 子どもにとって、大人は良き理解者です。

子どもから発せられる言葉のみでなく、身振りや視線、行動といった サインを感じ取ってあげましょう

ミラリング

子どもの行動をそのまま真似してみること

子どもが机をトントンと叩いたら、大人も一緒にトントンと叩いてみる。
子どもが手拍子をしたら、大人も一緒に手拍子する。

子どもの視点から見て「この人は自分のやることに反応してくれる!楽しい!またやってみよう!」という気持ちにつながります。自分以外の人との関係性に気づくきっかけ作りとも言えます。

モニタリング

子どもの出す声や音をそのまま真似してみること

子どもが「ああ」「うーー」と言葉を発したら、大人も一緒の言葉を発してみる。
これは、言葉を「そのまま真似る」ことです。

行動の真似と一緒で、子どもの「楽しい!」を引き出すための関係性作りです。
楽しさにつられて目線を合わせる場面が増えるかも?

ミラリングとモニタリング、どちらも子どもが注目している「なにか」があるかもしれません。それがわかれば、注目している「なにか」・子ども・大人の三角形を作っていることも言葉の発達には役立ちます!

パラレルトーク

お子さんの行動や気持ちを代弁してあげること


子どもがびっくりした素振りを見せたら、大人が「ビックリしたね〜」と声をかけたりすることです。

まだ上手くお話のできない子どもは、思っていることや感じたことを上手く言葉にできません。

大人が代わりに言葉で表現してあげることで、「この人は分かってくれてるな」と安心できたり、そんな風に言えば良いんだと分かったりします。

セルフトーク

大人自身の行動や気持ちなどを言語化する

子どもが車が遊んでいたとして、一緒にいる大人が「車欲しいな」などと気持ちを子どもに伝えてあげることです。

子どもの中で「パパはこれがイヤなんだ」「ママはこれ好きなんだ」と知ってもらう機会を作ってみましょう。

関わりの中で大人の気持ちを伝えるきっかけ作りにしていきましょう。

リフレクティング

子どもの発音や意味を正しく言い直す

子どもが犬を見て「わんわん」言葉を発したら、「犬だね」と否定することなく正しい言葉で返答してあげる。

大人目線で見ると「正しく言い直しをさせないと!」「間違って言葉を覚えるかも!」などと不安に感じることがあるかもしれません。
子どもたちは、大人との会話の中で自然と言葉を修正していきます。

間違いを訂正するのではなく、子どもに「実はこんな名前なんだよ!」というように言葉を返してあげましょう

エキスパンション

子どもの言葉を意味的、文法的に広げて返す

子どもが猫のぬいぐるみを抱いて「にゃんにゃん」と言った言葉に対し、「にゃんにゃん、抱っこしたね」と返答してあげる。

子どもが使う言葉のレパートリーを大人が示してあげることを指します。

エキスパンションでは、主に名詞以外を日本語をつけて広げるあげることが多いと思います。

モデリング

話題に沿いながら、子どもの行動や言葉のモデルを示す

子どもがおやつを食べている時に、「もぐもぐ、おいしいね」と言葉をかける

子どもにとって、「もぐもぐ」も「おいしい」も知らない言葉かもしれません、
モデリングは、子どもの行っている活動の言葉を大人がモデル呈示してあげることです。

コツとしては、「いろんな言葉をたくさん教える!」のではなく、「子どもが注目して、活動している中の要点となる言葉を選んでモデルを示す」ぐらいがベストです!

まとめ

実は使っているじゃないでしょうか

俺、私、使ってた!という技法、ありましたか? 実は、自然のうちに行っていることもあるんです。100人の子どもがいれば、100通りのことばかけがあります。 ここで紹介した技法がすべてではありませんし、子どもに対する働きかけは千差万別です。 子どもの表情や仕草、声を振り返ってもらい、育児や成長の一助でもなれればと思います。

参考資料・引用文献

1.中川信子著.1.2..3歳ことばの遅い子 ことばを育てる暮らしの中のヒント,ぶどう社
2.竹田契一,里見恵子,インリアル・アプローチ,日本文化科学社,1994
3.藤田郁代,言語発達障害学,医学書院,2013
4.Gunter Senft(著),石崎雅人,野呂幾久子(訳).語用論の基礎を理解する,開拓社.2017