①失語症って?

聞く、話す、読む、書く、計算が難しくなる

頭には右と左に脳があります。それぞれ役割は違いますが、言葉は主に左側の脳に大切な場所が集まっています。失語症は左側の脳に何らかの問題が起きることで、今まで行うことができていた力が失われた状態を指します。

以下、代表的な症状を示します。

・相手の話を理解できない
・自分が言おうとしても言葉が出てこない
・言いたい言葉を間違える
・相手の言うことを真似できない
・文字や文が読めない
・書いてある文字や文の意味がわからない

大まかなイメージですが、「突然海外に訪れた感じ」と伝えることがあります。日本語しかしゃべることができない人が海外行った際を例として挙げると

・日常的に使い慣れた「言語(言葉)」が使えないため、相手が話している言葉を聞いても理解することができない
・伝えたいことがあっても言葉で伝えることができない
・ポスターや新聞などの文字を見ても内容を理解することができない
・伝えたいことがあっても文字を書いて伝達することができない

などどのような言葉や文字で表現すればよいのかがわからなくなります。

失語症を発症された方は、日本にいながらこのような状態になってしまいます。失語症による障害は、他者とのコミュニケーションが困難になる他にも、読書やカラオケ、旅行や映画鑑賞など趣味活動にも大きな影響を及ぼします。

これらの「生きがい」とも呼べる活動を奪ってしまうことで、心理的な問題も生じやすくなります。コミュニケーションの側面以外にも大きな影響を及ぼされてしまうため、言葉以外の部分への支援も必要とされています。

②失語症の症状を詳しく説明

「聞く・聴く」症状について

耳の聞こえにくさはない(難聴ではない)のに、言われている言葉の意味が分からない、簡単な言葉が理解できたり、理解できなかったりする。これは二者択一様式でも回答することに時間がかかることがあります。同時に長い話になると、より言葉の理解が難しくなることがあります。


「話す」症状について

「ほら、なんだっけ〜あの〜」と頭でわかっていても、その言葉を話すことが難しくなる、リンゴの絵を見て、「リンゴ」と言いたくても「みかん」と別の単語を言ってしまったり、「リゴン」のように言葉の音を言い誤る、「かるめりも」と伝えたい言葉を推測できない言い誤りが生じる可能性があります。また、何度も同じ言葉を繰り返し話してしまう、もしくは同じ言葉しか話せなくなってしまう、相手の言葉をオウム返しで返答してしまう、などが挙げられます。また文章での会話では、「炊飯器がリンゴにグラグラと走った」、「カギジがスルモラにイジキです」等と、日本語にある単語や日本にない単語を文の形式で伝えてしまう発話などが見られる場合もあります。
 

「読む」症状について

文字は見えるけど、なんて書いてあるのか意味がわからない。文字を見て読む(音読)ができないことがあります。例えば、「海老」という漢字を見て「かいろう」、「歌声」という漢字を見て「かせい」、「車」という漢字を見て「バイク」などの文字を見て読み誤ってしまうことがあります。また、「かに」という平仮名を見て「かしに」、「プリン」というカタカナを見て「ぷいん」と読んでしまうなど、形が似た文字に読み誤ることもあります
 

「書く」症状について

頭の中に、言いたい単語の名前はあるけど、文字が思い出せない、「えんぴつ」と書きたくても「消しゴム」と別の単語を書いてしまったり、「えつひ」など文字を謝って書いてしまうといった書き間違えが見られらりします。また「てにをは(助詞)」をうまく使えないなど、文字で文章を書くことが難しくなるといったことがあります。

③言葉を話すためのプロセス

ここでは「話す」部分のみピックアップします

①事物・絵を見る(視力、視野など主に眼から入ってくる情報を頭で確認します)
例:目でリンゴを見る

②事物・絵の形を分析する(奥行き、色、形、動き)
例:どんな形?どんな色?

③事物・絵の意味や知識、知覚情報の照合を行う
例:これは「リンゴ」ということ頭の中で確認する。同時に、「青森が有名」などの知識という結びつける

④そのものが意味する単語を思い出す
例:今、目の前にある物が「リンゴ」という言葉だと、この段階で思い出します

⑤言葉の情報を思い出す
例:「リンゴ」という言葉は、「リ」「ン」「ゴ」という音から構成されていること、どんな文字で どんなイントネーションで声を出すなどを頭の中で整理する

⑥整理した言葉を上手く組み合わせる
例:「リ」「ン」「ゴ」は、「ゴンリ」じゃないよな?「リゴン」?いや、「リンゴ」だ!と正しく並び替えます

⑦声に出すための設計図が組み立てる
例:どんな力で?どんな速度で?どんな位置で?どんなタイミングで?口、舌、喉を動かして声に出すか命令を出します

⑧設計図の情報を元に実際に筋肉を動かす
例:設計図の情報を元に命令が出された通りに口、舌、喉を動かす 物を見て名前を答えるという


これ以外にも、数多くのプロセスや仮説が考えられています。
言語聴覚士とのリハビリテーションでは、個々の失語症状の原因を分析すると同時、保たれた能力も見極め、個人の要望や理想に寄り添いながら個別性のあるリハビリテーションを行っていきます。最終的には、様々な手段を用いながら、周囲の方々と意思疎通が図れることや、行政、福祉と家族との繋がりを促していくことも言語聴覚士の役割の一つです。

ここで一つ戯言を。 近年、「オーダーメイドの治療を提供します」などの広告を目にすることがあります。 確かに響きの良い言葉だと思います。 一人の言語聴覚士として、「オーダーメイド」でないリハビリテーションなど存在するのかと疑問に感じています。 個人の生活背景から、症状まで、一人として同じ人はいません。 その方に応じた専門性を発揮し、生活の一助になることがセラピスト(言語聴覚士含む)に求められることではないでしょうか。

多くの問題を抱える方(ここでは失語症になられた方)が適切な対応をとれる専門家に出会うことができますよう願っております。


参考文献・引用資料

1.藤田郁代・立石雅子編集,標準言語聴覚障害学 失語症学.医学書院.2015
2.波多野和夫著,言語聴覚士のための失語症学.医歯薬出版.2014
3.小嶋知幸編集,なるほど!失語症の評価と治療.金原出版.2010
4.鹿島晴雄編集,よくわかる失語症と高次脳機能障害.永井書店.2012