基礎知識 補聴器のいろは
補聴器のいろは
補聴器って?
補聴器ってどんな機械?
補聴器は耳栓・マイク・増幅機・スピーカーから構成された音声増幅機能をもつ器具です。音声増幅機能とは、マイクで集めた音を増幅して耳栓やイアモールドを介して耳の中に大きくした音を伝える機能を指します。
補聴器と集音器の違いは?
補聴器と集音器、どちらも耳にセットして音を大きくする器具に違いはありません。じゃあどこが違うの?
結論を言うと医療機器かそうでないかの違いです。
補聴器の場合、薬事法にて管理医療機器の認定かつ厚生労働省の承認を受けた医療機器です。単純な音の増幅以外にも大きな音が出過ぎない機能も搭載されています。また、医療機関、専門機関にて個人に応じた調整を行うことができる性能が搭載されています。
集音器は医療機器ではなく音響機器です。補聴器のような精密な設定がなく単純に「音を大きくする」と言う機能しか搭載されていません。
※音の増幅を制限している機能がついた機器もありますが、医療機器として認定されていないため補聴器には該当しません。
以上のことからも「補聴器」と「集音器」は全く違うカテゴリーの製品だという事がわかりますね。また販売方法も大きく異なります。
どんな種類があるの?
大きく分けて4種類
◆耳かけ型
◆耳あな型
◆箱型
◆メガネ型
よく目にする補聴器は、耳かけ型と耳あな型が多い印象を受けます。
どれを選んだら良い?
購入される方の目線で言うのあれば、値段・形状(形)・用途とうかがいます。このページでは、医師・言語聴覚士目線を解説を少しだけ!
購入される年齢
年代により求められる機能が異なります
子ども・成人・ご高齢など、購入を検討されている方の年齢を考慮します。
子どもであれば、誤飲(食べ物以外を飲み込む)を防ぐためにロックができるか、落として壊れてしまうことを防ぐために耐久性は十分か、汗や落水により修理が必要になることがあるので防水性は十分か、などを考慮する必要があります。同時に成長とともに耳の形が変化していくため、頻繁に作り替える必要がある場合もあります。
大人で使用している場面に遭遇したことがないので、子どもの部分に記載しますが、ワイヤレスシステム(roger:補聴援助システム)も検討します。近年、障害者差別解消法によりさまざまな場所にて合理的配慮が求められるようになったこともあり、子どもの補聴器と学校、幼稚園・保育園の先生の首にかけたマイクで子どもの学習する機会を保障する機器として普及しています。
ご高齢であれば、認知症や脳血管疾患の既往歴や現病歴がないかを確認します。その他、当人ではなく、家族が難聴かも?と疑われ相談を受けるケースもあります。また、補聴器の装用を受け入れがたく拒否されるケース、「必要ない」とつっぱねられるケースも多い印象があります。いずれの理由においても、しっかりと問診を行う必要があります。
どんな難聴か
難聴のタイプはとても大事
伝音性難聴・感音性難聴はもちろん、先天性難聴、老人性難聴など、難聴の種類を考慮する必要があります。
感音性難聴を例として挙げると、単純な音の増幅では補充現象が発生してしまい不快な大きさの音を感じてしまうかもしれません。『耳が聞こえない=音を大きくする』のではなく、小さな音は増幅しつつ、大きな音は少しだけ増幅するという設定を行うことがあります。
音の増幅方法にはリニア増幅・ノンリニア増幅という方法があります
◆リニア増幅(線形型増幅)
小さい音も大きい音も同じぐらい増幅する
※リニア増幅にも、集音器とは違い出力制限があり、一定の音以上にならないよう制限がかかっています。
◆ノンリニア増幅(非線形型増幅)
小さい音を大きく、大きい音は少しだけ増幅する
※リニア増幅は伝音性難聴の方、ノンリニア増幅は感音性難聴の方、というわけではないので注意してください
この増幅方法は、オージオグラム(聴力検査の結果を示したグラフ)の結果を参考に調整します。リニア増幅のように音を増幅した方が聞こえが良いのか、ノンリニア増幅のように細かく周波数帯を分けて調整した方が良いのかは、検査の結果が非常に重要であると言えます。
なお、各補聴器の形、サイズ、デザイン、チャンネル数、バンド帯はカタログに記載してあるので少し気にしてみるか、医師を含む専門家、補聴器認定技能者、補聴器販売店にて確認していることをオススメします。
難聴の重症度
重症度で設定が全く異なります
難聴は軽度難聴、中等度難聴、高度難聴、重度難聴と分類されます。
以下どの程度の聞こえるかの参考を示します。
◆軽度難聴
25〜39dB(デシベル):小さな声が聞きづらい
◆中等度難聴
40〜69dB(デシベル):普通の会話が聞きづらい
◆高度難聴
70〜89dB(デシベル):普通の会話が聞き取れない
◆重度難聴
90dB(デシベル)以上:耳元で話されても聞き取れない
難聴の程度はdB(デシベル)で表示されます。0dBが一般的には正常な聴力とされています。聴力検査において全く「聞こえない」という難聴の方もいらっしゃいます。この場合、難聴の分類としては最重度難聴(聾)ということがあります。
難聴には軽度から重度が存在します(別途説明します!)。難聴が重度になるほど、大きいサイズの部品が必要になります。同時により大きな出力の物ほど大きいサイズの電池が必要になることがあります。
いつから補聴器を使えば良い?
できれば早めがオススメです
補聴器の装用はできるなら早めをオススメします!!
その理由はいくつかありますが、子どもと大人では効果は異なってきます。
◆子どもの場合
脳(頭の中で音を受け取る場所)を育てるためには早い方が良いとされています。米国言語聴覚学会(American Speech-Language-Hearing Association)では以下の4点に影響を与える可能性を示しています。
・言葉の発達の遅れ
・言葉能力が不足することによる成績不良
・会話に対する不安に起因する孤独や自己肯定感の低下(消失)
・職業選択の制限
他にも、自分の発音を確認する手段が少なく正確とされる発音を獲得することに時間がかかるという機会損失の影響もあります。
早期に診断と処置、装用を開始することが難聴をもつもつ子どもにとっては大切だと考えられます。
※特に新生児から乳児の間は時間との戦いです。早めの診断と処置を医療機関にて実施することが言葉の獲得において重要となります。1−3−6ルールがありますので機会が別の場所で説明しようと思います。
◆大人の場合
「聞こえなくてもなんとかなる!」と思っている方も少なくないと思いますが実は大人の難聴は、認知症と深い関係があるんです。
2015年に策定された認知症施策推進総合戦略において、認知症の危険因子として「加齢」の他に「難聴」も挙げられています。『難聴=認知症』というわけではありませんが、音が十分に聞こえない・聞こえにくいことで、テレビの音が聞こえない、声が聞こえにくいから会話が行えない、生活環境に存在する音に反応することができなくなります。結果としてですが、活動する機会や他の人と関わる機会が現象していくことで認知症をもたらすことがあります。
参考文献・引用資料
1.Harvey Dillon原著・中川雅文監訳,補聴器ハンドブック 原著第2版,医歯薬出版,20172.山田弘幸編著,言語聴覚療法シリーズ5 改訂 聴覚障害Ⅰ-基礎編.建帛社.2012
3.中川雅文著,耳と脳 臨床聴覚コミュニケーショn学試論,医歯薬出版,2015
4.American Speech-Language-Hearing Association
https://www.asha.org
5.厚生労働省 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/nop1-2_3.pdf